*。:.゚ボクとアナタとチョコレートと゚.:。 ゚【BL】
「早かったな……」
ナツくんの隣にある部屋を開けて、戻ってきた和の部屋。
さっきいた漫画やら可愛い小さなマスコット人形が乗っていたナツくんの机とは違って、相変わらず本だらけの机に苦笑してしまう。
和とナツくんは両極端で見ていて楽しい。
「うん、だってもともとは論文の資料になる本を見せてもらうっていう約束だから」
俺はそう言って、高い本棚に手をかざし、目的のものを取る。
「ほう?
てっきりそれは口実で、ナツが本当だと思ったが?」
和は本当に俺をわかっている。
だから余計困ったり、逆にほっとする部分もあるんだけど……今は困る方だ。
内心で抗議しそうになる声を抑え、手にしていた本を開く。
「うん、だけどもう用事終わったから……」
言った直後だった。
……カシャン。
部屋のドアのすぐ後ろで何かが割れる音がした。
何事かと思ってドアを開けたら、すぐそこには艶やかな黒髪の頭頂部に可愛らしいツムジが見えた。
その下には、欠けたコップの破片とコップ……。
そのコップの中に入っていただろう液体で濡れた床――……。
それらはナツくんが落としたらしい。
「あ、えと……ごめんなさい……」
「大丈夫? 怪我は?」
割れたコップを拾おうとする両手を掴んで止めたら――。
パシン。
――手を払われた。
「へいき……」
消えそうになる声に、意味もわからなくて戸惑っていると、ぽたり。ぽたり……。
また新たに床が濡れていく……。
「ナツくん?」
一向に床から視線を外さないナツくんが気になって、顎を持ち上げたら……。
「……っつ……」
「!!」
ナツくん?
「ごめっ!!」
大きな瞳を濡らして、俺から走って逃げた。
え?
なに?
ナツくんが頬を濡らしていた理由がわからない。
意味がわからなくてその場で立ち尽くす俺……。
「お前……さっきの言葉、勘違いしたぞ」
「え? さっき?」
――ダケドモウ用事ハオワッタカラ――
たしか、そう言った。