*。:.゚ボクとアナタとチョコレートと゚.:。 ゚【BL】
「あ…………」
そこでやっと気がついたのは、ここへ来てナツくんにした事といえば、キスだけだ。
ナツくんと恋人のような甘い会話もろくにせずに……。
まさか、キスするのが用事だと思われた?
ナツくんは、俺と付き合う前の当時の俺の姿を知っている。
俺が……取っ替え引っかえ恋人を替えていたという事実を――……。
ナツくんはキスするだけが目的だと思ったのか……?
パタン。
どこか遠くの方でドアが閉まった音がした。
ナツくんが家を出たっていうことだ。
「お前はナツに対しても去る者追わずになるつもりか?」
言われて、我に返った。
――そうだ。
こんなところでショックを受けてる場合じゃない。
「……っ!!」
俺が一歩足を踏み出したその時――。
「おい」
後ろから和に呼びかけられ、苛立ちながら振り向けば、視界に飛び込んでくる銀色のモノ……。
「しばらく帰ってくんな。
勉強の邪魔だ」
無愛想な和の声とほぼ同時に空中に放り投げられた銀色を掴んで、手の中のモノを見れば、車の鍵があった。
「ありがと」
俺は振り向きもせず、走ってナツくんの背中を追う。
オレンジ色の夕日が小道でたった一人、走る小さな背中を照らしている。
見つけた。
「まって、ナツくん」
背中越しで呼び止められる俺の声に、びくんと背中を震わせたものの、それ以外に何も反応せず走り続ける彼。
「ナツくん!!」
やっとある程度近づき、ナツくんへと伸ばした手は――……。
「……っつ、やっ!!」
パシン。
一度ならず、二度までも手を払いのけられた。
もう限界。
なんで払われなきゃなんないの?
あーーーー!!
もう!!
苛立ちながら小さく震わせた肩を無理やり掴み、立ち止まらせると問答無用で手を引っ張り、角を曲がる。
「やっ、離して!!」
離す?
冗談。
「イヤだね」
その声はとても焦っていたおかげで低い唸るような声になっていた。
おかげでナツくんが何も言わなくなったのは良かったのか悪かったのか……。
駐車場にある和の白い軽自動車に鍵を差し込み、ナツくんを助手席に押し込めると、俺もすぐ運転席へ乗り込んだ。