かぐや皇子は地球で十五歳。
第1章 転校生は、中二病。
「─────雑魚が。」 

 人体ってやつは首を斬り落とせばどうしたって血飛沫が吹き上がる。
 花弁のように宙へ舞った紅い血粒を強風が手前へと押し流し、制服の白シャツに紅い斑点模様が滲んでしまった。
 無惨な肉塊となった死者は首を抱えられ、四肢を捕られ、何千という黒き手に引き込まれていく。
 仕事が終ればこの返り血も人を斬る感触も全て闇が掻き消してくれるが、今日ばかりは汗が吸った砂を落とさねば眠れない。

(もう2時か…、明日の始業式で寝るしかないな。)

 闇が消え月明かりが辺りを照らすと、ぐったりと疲れが全身を蝕んでいく。弱輩だが逃げ足ばかり早く幾度も闇移動を繰り返してしまった。
 人気のない深夜の街を引き返すが、見知らぬ夜道は気が遠くなるほど心細い。また春風は呼吸すら億劫になるほど休みなく吹き荒れている。

(ゆかり……会いたいよ。)

 月を仰ぎ想いを馳せ、またとぼとぼと足を進める。あぁ、どうやら過保護な侍従が一人迎えに来たようだ。階段の中程で腕を組みこちらを見下ろしている。

「あきら様……、ご無事で。」
「鬱陶しい風だな。」
「明朝には止みましょう。」

 日々不満ばかりを積もらせていく。
 眠れぬ夜を過ごし、何故闘い続けなければならないのか。
 生まれ育った地を離れてまで、何故彼女を守らねばならないのか。

 私立桐晃学園中等部3年3組眞鍋ゆかり。
 まだ見ぬその姿を思い浮かべる。
 絹糸のようにハラハラと流れる艶やかな髪。陶器の白肌にのる大きな眼と朱に染まる果実の唇。愛しいと想い浮かぶ女の姿はただ一人、彼女を超越する女などこの世界に存在するものか。
 それでもうっすらと胸の小皿に期待を敷き、曙を待つ己が疎ましい。

(ゆかり─────。)



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