かぐや皇子は地球で十五歳。

「「「申~し訳ございませっん!!」」」

 病室の床に平伏す大人達を眺め、廊下側から看護婦達がひそひそと立ち話を始めた。

「俺の不注意だ、みんなの責任じゃない。いい加減頭上げて。」

 生きた人間に襲われるなどと想定もしていなかった。だが平凡緩い学園生活に浸りきっていたことは事実。油断し隙だらけで殺人鬼を出迎えたのは俺だ。
 いの一番に立川が顔を上げたので、二リットル未開封のペットボトルを憎たらしい顔面へ放り落とした。

「いっだ─────────!!」
「いだだ……傷開く。立川は反省しろ!俺を蹴り飛ばしやがって!」
「ごめんなさいぃ~。」

 どうやら本気で申し訳ないらしい、全身を使って謝罪を表現し床に正座で丸まった。

「それよりも早急に事態を明かにしないと。立川は桐晃学園の生徒をしらみ潰しに調査して。雅宗とアメリはゆかりのフォローだ。同じ忌み子である以上、また急襲に遭う可能性が高い。登下校は任せたとして……問題は学校だな。頻繁に覚醒睡眠が症じるゆかりは穴だらけだ、格好の標的といえる。」
「それは……多分、心配いらない。眞鍋は今、栗林と坂城の鉄壁に守られてるよ。放課後人気のある間に下校させれば安全だろ。」

 それもそうだ。あの二人のことだ、必死にゆかりを庇い立てしていることだろう。
 後はこの状況下でゆかりの精神力が耐えられるか…連休まで持ち堪えればいいが。

「ゆかりには、どこまで話した。」
「死者と闇能力に関しては細部まで。種族と私達の歴史については触れていません。」
 正しい判断といえる。まだ知る必要はない。「そうか」と窓の外へ目を游がせると、急に横柄な態度で雅宗がベッドに浅く腰を掛けた。

「なんかお前、覚醒前の生意気なガキに戻ったな。」
「ぁあ?」
 見上げた先の顔が厳しい。
「構わないけど、ゆかり様だけは傷付けるなよ。」

「……分かってるよ。」


 でも逃れられない。
 俺はゆかりを傷付ける。

 きっと何度も、何度も。

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