かぐや皇子は地球で十五歳。
『ガスッ』
「ふぎゃ──────────!!」
額を押さえた晃は仰け反った先で次には脇腹を押さえ、ゴロゴロとベッドでのたうちまわった。慶子に習った頭突きの威力に溜め息をつきながらも、傷が開いていませんように。と合掌した。
「怪我人なんですけど!?」
「重傷患者が尻擦りながらキスしようとするか!しなーい!」
「い、いやぁ……流石にタマってましてぇ。」
「ナースに処理してもらえ!」
「栗林に似てきたな!」
一頻り悶え終えると晃は申し訳なさそうに喋り始めた。
「驚いただろ、その……色々と。環境も変わったし、それに……今日通夜に行ったってことは木村の両親に会ったんだろ?」
「うん。でも、山代先生がちゃんと事前に話してくれてたから。」
「それでも、泣いてたじゃないか。」
また「悲しそう」に私を見上げる。胸がまた「ぎゅっ」と締め付けられ涙を誘う。
────────俺には甘えないで。
言葉とは裏腹に、そんな顔をした。
思えば、一世代に二人の忌み子。意識し合うのは当然だ。
晃は覚醒睡眠が始まる私を守る為転校してきた。転校先で出逢った忌み子の片割れは想像以上の美少女、晃は「運命の女だ!」とでも舞い上がったのだろう。だが日々付き合ううちに理想像と中身が伴わない私に失望し、今に至るのだ。「ヒーロー漫画みたいに俺はゆかりを好きにならないから、無駄な片想いはするなよ!」と態度で事前報告している。
現に泣いている私に気付いても、お尻を触りわざと私を怒らせた。坂城くんみたいに慰め泣かせてはくれなかった。
ここまであから様に示されると、逆に優しさを感じてしまう。答えは一つ。
恋になる前に、晃を諦めよう。
(あきらをあきらめ……?……さぶっ)
「ぶっ……ふははは!」
「え!何!思い出し笑い!?」
ずっと一緒にいるんだ、兄弟だと思えばいい。髪質とかソックリじゃん。うん、そうだそうだ。可愛い顔してるから、弟に見えてきた。
「何か必要なものある?買ってくるよ。」
「えー…?じゃあ、ジャンプ読みたい!暇で暇で!」
「了解しました~!」
ジャンプだと?益々弟みたいだ。そういえばバタバタしていたから私も最新号をまだ読んでいない。晃が退院したら弟のジャンプを盗み読みしよう、そうしよう。なんだか楽しくなってきた!
(よかった……間に合った。)
通夜で流した涙とは違う、心の根底から溢れ出すような涙がぼたぼたと瞳から零れていく。虐げられるのは慣れている筈なのに。
君は上部だけの人間で、その心は愛し難いほど捻れきってる。
そう言われたみたいだった。
胸に重く刻印され、焼け焦げるように痛い。
あぁやっぱり、生まれ変わるなら、ブスになりたい。
捻れた心に相応しい、醜いブスに。