かぐや皇子は地球で十五歳。
 その日の夕方、稀にみる客入りとなり閉店が二時間延び、夕食に箸をつけられたのは夜8時。柏木家では朝昼洋食の為、夕食は決まって和食だ。フランス人のアメリが納豆にキムチと梅干しを加え幸せそうに食事する姿はかなり異様だがもう慣れた。雅宗さんは熱燗二本を幸せそうにチビチビと呑み、イカスミは私の足下で猫まんまを食べながら、随時雅宗さんの酒のつまみを狙っている。
 まとめたブロンドの髪を乱し憔悴しきった顔で首を左右に傾けながら、アメリが口を開いた。

「ゆかりちゃん、そういえば映画はどうだった?何気に晃が観たがってたのよね~、今日の話したら泣くわよ?」
「えー…?湯浅くんのことだから、馬鹿にされるかと思ってた。すっごく面白かったから、もう一回観たい!誘ったら行くかなぁ!」
「チケット代払うから私も連れてって!」

 アメリはフランス人にありがちなどっぷり浸かり込んだアニヲタだ。午後6時の閉店理由は総てテレ東にあり。わーい!もう一回観れる!と喜び足をブラブラさせるが黒猫の滑らかな毛並みが足首に吸い付かない。テーブルの下を覗き込むと珍しくご飯を残したままイカスミが姿を消していた。

「あれー?イカスミちゃんがいないよ…?」
「心配なさらずとも、夜風に当たりに出たのでしょう。」
「今の敬語っぽい!」
「はいー、ひゃくえーん。」
「ぐっ…………わかったよ。ん………?」

 渋々小銭をポケットから探り出すその手は止まり、カウンターで震える携帯電話を取った。着信画面を見るなり、携帯電話と並べて置いてあった車のキーを掴み裏口へと向かう。

「……出たの!?」
「晃のSOSだ、急ぐぞ!」

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