かぐや皇子は地球で十五歳。
「何故だ……何故、消える────────」
使者の侵入を許し従者を殺害され、剣をとらない訳などいかぬ。暇無く押し寄せる剣風を剣で返せば自と斬り伏せてしまう。斬れば生き血が噴出するが、息が止まれば闇へと溶け消えていく。闇剣で斬りとて闇に還るのは魂のみ、身体は現世に遺される筈。空囮(くうが)では有り得ぬこの現象、この闇は一体──────────
「あきら様……!避難艇へお急ぎください!」
利き腕をもがれ血の気が失せた〈天地〉の弱々しい顔。あの剛腕とまともに打ち合ったのだ、痛々しくも誇らしい。共に逝こうと誓いをたてた親しき侍従はここまで追い詰められても、尚もまだ俺を生かそうと急き立てる。
「……っいやぁ……!〈天空〉───────!!」
壁の向こうで悲鳴が轟く。どうやら侍女の剣が破砕してしまったようだ。背に添う小さな手が「ぎゅっ」と俺の着物を掴んだ。
あぁ……──────なんて哀しい最期なのだろう。
私は同朋を見捨てることなど出来ない。
「ゆかり、すまない。」
「あきら?………嫌よ、それだけは……!ならば、わたく──────────」
払い落とした着物は愛しい温もりも剥ぎ取っていってしまった。
〈天地〉を押し退け下降する悲声から逃げるように戦線へと駆け戻る。武器を失った〈実(みのり)〉は死ぬことも許されず、夫の目前で陵辱されようとしていた。投げ出された白足を掴む穢らわしい男の手を断つと、黒き花弁が宙を舞い囲う使者の道着を斬り刻む。怒り任せにカザナシを錬成してしまったようだ。ゆかり、君の創りし剣はなんと惨虚で美しいのだろう。
白船を朱で塗り染め肉塊で汚したというのに、やはり使者の遺体は総て闇が溶かし消していく。遺されるのは〈天空〉が作りし血溜まりのみ。一体何十人斬ればこの闘いは終わるのか、使者が上ってくる足音は鳴り止まない。黄金髪を乱し動かぬ夫にすがり付く〈実〉を立たせ、闇剣を握らせた。
「私は足掻くぞ。」
「ならば、御供致します。」
斬っても、斬っても溢れる使者。
斬っても、斬っても消える遺体。
使者を身体ごと喰らう卑しき闇の真意など解せぬ。だが報復に剣を振り殺戮を繰り返す俺は最も卑しき賊ではないか。まさに忌まわしき忌み子。忌み民の末裔。この酬いは魂に刻まれよう。
─────────避難艇離発、避難艇離発。自動自爆発動。
使者を滅し、遺されたのは従者の遺体と俺一人。並ばせた同朋に寄り添い、手のひら越しに輝く蒼い星に思いを馳せる。君の魂だけは生き続けて。命を紡いで。
「なん……だ、この揺れは。」
船ごと吹き飛ばすような月星ごと揺らす震動と爆裂音。黒宇宙を見渡せば見渡した総てが燃える烈火の焔。使者を乗せた大船がこの船へと衝突した衝撃波のようだ。この船が自爆すれば爆破は大船ごと爆風を拡げ、小さな避難艇など一瞬で巻き込んでしまうだろう。
「そんな……────────ゆかり!」
君を一人逝かせる為に離れたのではない、希望を小舟に乗せ突き放したというのに……!
なんと、なんと愚かな───────────────