かぐや皇子は地球で十五歳。
「おっ童貞主君様、起きましたか。」
「テン…チ?」

 どうやら長い夢を見ていたようだ。保健室の時計は昼休みが終わる時間。起き上がろうと頭を上げるが目が眩み、再び枕に沈むと顔面にパンくずが降ってきた。立川が俺の顔を覗き込みながらサンドイッチを頬ばっている。

「きーさーまー!」
「まぁまぁ、安静に、安静に。貧血だとさ、後一時限は寝とけ。その頃にはお隣さんも起きるだろ。」

 窓際に置かれたもうひとつのベッドには豊かな睫毛を重たげに瞑り、ゆかりが気持ち良さそうに寝息をたてていた。

「今なら保健室のお姉ちゃんも休憩でいない。簡単でいいから話を整理させておこうと思ってな。」
「話……?何の。」
「俺達侍従が死んだ後の、話だ。俺が知るお前の最期はこうだったんだろうな、と漠然とした推測でしかない。そこにきっと落とし穴がある。」

 今更悲運な前世の記憶を掘り起こし、現世に繋がる糸でも手繰り寄せようとでもいうのか。偶然にも先程まで鮮明に夢でみていたのだ、語るには易く淡々と無感情に言葉を羅列させた。
 聞き終えた立川は深い溜め息をひとつ、ベッドの布団に頭を沈めた。

「繋がった………完璧に。……晃様、……申し訳ございません。私が見落としていなければ………」
「なんだよ、いいから説明しろ。」
 力無くヒラリと手元に落とされたプリント用紙。
「晃様が覚醒後出現している死者は総て、我らが宿敵使者。私達が辺境の月で殺害した者達で間違いないでしょう。私達種族は使者の襲撃に遭い、同朋を救う為やむを得ず闇剣を取り闘ってしまった。その酬いは地球へ暴落し我々はこうして今世でまた使者の魂を闇に還している。還せば魂は安らかに眠り、この償いは私達の代で終止符が打てるのだと安易に考えていました。」
「そうはいかないだろう。闇は新たに魂を喰らい、また死者を生む。俺達はこの星でまた永遠の闘いを強いたげられる。それが月で滅した俺達の酬いだ。」
「問題はそれだけではありません。貴方は先程使者の船が自爆前の我々の船に衝突したと仰いました。つまりは爆破に巻き込まれ事故死した使者が存在するということです。この表をご覧ください。」

 手元に広げられたプリント用紙に印刷されているのは中等部3年全生徒の生年月日一覧。立川が指を差した先には4月生まれの生徒が縦に並んでいる。

「なんだ………これは……、4月20日生まれが……40人?」
「転生の法則にピタリと当てはまります。間違いなく、その40人は大船で爆死した使者の魂。」
「馬鹿な─────────!」

 いや、考えれば当然といえる。立川は盲点だったと言うが、俺ならすぐに推測できたこと。何故早くにこの可能性を導き出さなかったのか。今更悔やんでも遅い。
 問題は転生した使者が40人、この桐晃学園に集結しているこの状況、とてもじゃないが偶然とは言えない。何か目的をもって召集され、またその首謀者はかなりの権力者といえる。
 ふと思い立ち、一覧から一人の名前を探す。下らせた指は直ぐにその名を捉えた。

「木村賢一。」
「そうだ、木村賢一は使者だったんだよ。つまりは4月20日時同じくして40人、使者の記憶が覚醒している。」

 3年、6クラス。240人のうち40人。6分の1の割合。まさかこの桐晃学園で使者による忌み民殲滅劇が再開されるとでもいうのか──────────

「だったら、何故木村は自殺したんだ───────?」
< 43 / 58 >

この作品をシェア

pagetop