かぐや皇子は地球で十五歳。
「蒼い……石。」
私、眞鍋ゆかりの誕生から始まる、愛が籠った日記冒頭文。亡き父を思うとまた涙が込み上がってきてしまう。今集中すべき点は生後直ぐに私が吐き出したという水晶の存在だった。
確かめたい。今すぐに。
だが深夜を回ったこの時刻に一人で外出など許されない。間違いなく晃に自覚がないのだと怒鳴られるだろう。
私の石は見れないが、この家には晃がいる。同じ忌み子ならば晃の出生時にも石が吐き出されている筈だ。学生鞄の内ポケットから指先程の小さな鞣し革の巾着袋を取り出し、隣の部屋の扉をノックした。
「あれ……、いないのかな。」
何度叩いても出てくる様子がない。廊下は物音ひとつしない、みんな下にいるのかもしれないと、螺旋階段を下り勝手口からキッチンへと入った。カウンターの向こうを覗くと、成る程晃を囲い大人達が揃って何か話し込んでいる。
輪に交じろうと冷蔵庫から牛乳を拝借し、マグカップに注いでいた時だった。
「そういや、ナースが立川のアドレス知りたいって言うから教えたけど。合コン成功して持ち帰らないなんて、らしくないのな。」
「おーおー、余計なことを。俺は巨乳はパスなんだよ。アメリで見飽きてるからな。……ふぎゃっ!」
「ロリコン変態教師は床で寝てろ!」
鈍器の鈍い音がした気がする。なかなか表に出るタイミングが掴めない。
しかしあの巨乳ナース、立川狙いだったのか。親密そうだったから、てっきり晃の性処理班かと思っていた。
ふざけた場を引き締める重苦しい雅宗さんの声。
「しかし……これから辛いな。実の母親が失踪、しかも使者だとは……。」
「問題は覚醒前に過去を知ってしまったことだわ。思春期の女の子がよ?信じたくないでしょうね。」
「まさかとは思ったが、律儀にあきら様とゆかり様のことまで書かれてる。どうする、晃。嫌でもゆかりちゃんはお前を意識してしまうぞ。」
「今まで通りやり過ごすよ。」
一寸の静寂。
「底無しに馬鹿だな。」
立川が意地悪く絡む。
「お前さ……、本気でゆかり様一筋でいくつもり?一生童貞貫くの?あ、俺みたいになりたいの?」
「貴様のようには絶対ならん!こう見えて俺は一途で真面目なんだよ!」
「その顔で童貞貫いちゃうのか!あははは、眞鍋が彼氏作って結婚して子供生んじゃう間も童貞貫いちゃうのか!」
「煩いよ!」
「ゆかりちゃんの誕生日過ぎても、晃には指一本触れさせないからね!」
「いいよ。俺はゆかりを忘れたくない。俺が愛しているのは彼女だけだ。」
「……底無しにガキだな。」