かぐや皇子は地球で十五歳。
 ゆかりと栗林を仲直りさせようと昼休みの残り時間社会科教室へ向かったが、教室にはのんびり茶を啜る立川一人だった。

「おぅ童貞主君様、いらっしゃい。ココアでも飲む?」
「個室持ち教員、随分と満喫してるなー…まぁ、もらうけど。」
「ココアは眞鍋の餞別だよ。ところで三組の使者の様子はどうだ?」

 どうやらこいつ、昨夜の記憶がないようだ。
 驚くほど賢者モードの質問にやや苛立ちを覚える。

「使者ねぇ…黒川ってヤツと絡んでみたけど、何か知ってる風でもないんだよな。惚けてる様子もないし。」
「普通に考えれば使者が覚醒したところで、ただの記憶だからな。街中で何度か死者を還しているなら、木村賢一には偶々見られていた可能性が高い。他の生徒が俺達の存在を知ったところで過去の使命を果たす為だけに殺人の重罪を背負うとは考えられないしなぁ。」

 俺だって後は知らぬ存ぜぬを決め込んで、使者の生まれ変わりを監視していれば安泰だと、そう思いたかったよ。

──────眞鍋ゆかりは後11人の命を奪う───────

 ゆかりが命を奪う?木村の後に続く、つまりは後11人ゆかりを理由に使者が自殺するということか?
 まるで忌み子に奉られた生け贄だ。儀式?だとすれば12人の生徒の死の先には何が待っているのか──────

「それでゆかりは?ここで飯食ってたんじゃないの?」
「お生憎様、入れ違いだ。ゆかり様は坂城くんに連れられていっちゃったよ。話があるんだって、何やらカシコマッテ!」
「え!あいつ部室に用があるって─────」
「坂城かぁ、俺は結構好きだぜ、馬鹿だけど。気が利くし優しいし、お前みたいにゆかり様を傷付けたりはしないだろ。」
「どーゆー意味だよ!」
「俺はあったか~い目で見守るってこと。譲れ。諦めろ。」
「いーやーだー!」

 ココアを半分も飲み終わってないのに、ひょいと首根っこ掴まれ教室から追い出された。

「耐えろ、正念場だ。眞鍋に幸せになって欲しいんだろ?」

 扉を閉められる直前、童貞はマスかいて寝てろ。と中指を突き立てられた。貴方中学教師ですよね。

「いやだ……。」

 矛盾してるよ。わかってるよ。
 だからって。こんなに早く、しかも目の前で。

 初めてできた、友達らしい友達に奪われるなんて。


 
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