オリオン座


彼女は手術をし命は助かったものの、遷延性意識障害という病状だという事。




つまり植物状態だという事。




植物状態、生きてはいるけれど目を覚まさない。




つまり彼女は、この先目を覚ます可能性が極めて少ないという事。




生きてはいるけど、彼女と話したり出掛けたり、笑い合ったりすることができない。そういう事だ。




僕には重すぎた。起きない彼女を、その病状を。全部受け入れるのには重すぎた。




それから全部を受け入れるのには時間がかかったけれど僕は毎日彼女のもとに通った。




冬が過ぎ春になり桜が散っていきセミが鳴き始める時期になっても彼女が目を覚ます事はなかった。




それでも彼女のもとに通う事は止めなかった。




毎日、彼女のもとに行ってはその日あった事。感動したこと。面白かった事をひたすら彼女に伝えた。
返事は返ってこなくても、それぐらいしか僕にできる事はなかった。




脳死と違い植物状態はまだ回復する可能性が少なからずも残っていたから、それだけを信じるしかなかった。




彼女はいったいどんな夢を見ているんだろう。どんな事を感じているんだろう。彼女の顔を見るたびにそう思わされる。




きっと僕の声が届いていますように……。




窓からはオリオン座だけが輝いて見えた。




そしてそれからいくつもの季節が過ぎて行った。
< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop