世界を濡らす、やまない雨



角谷に誘われた日、私は少し早めに出勤してできるだけ早く仕事を片付けた。


朝、家を出る前に


「高校の友達と夕飯を食べに行く」

と言うと怜はあっさり了解してくれた。

その友達が男だということは怜には伝えていない。


怜は玄関を出て行こうとする私の背中に向かって言った。


「杏香、遅くなってもいいぞ。帰るとき、連絡しろ」

私よりも出勤時間の遅い怜は、眠そうな顔で廊下の壁に凭れかかっていた。

欠伸をして私を見送りながら、何の疑いも抱いていないらしい怜を見て少し後ろめたい気持ちになる。

二人で食事に行くからといって角谷と何かが起こるわけでもない。

けれど、怜に対して少しの後ろめたさを感じるくらいに、私は角谷と会えることを楽しみにしていた。


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