世界を濡らす、やまない雨
「ねぇ」
有里の唇がゆっくりと動く。
唇から漏れるのは、彼女の目と同様に冷たい声。
有里の声を間近で聞くのは数日ぶりだった。
有里の目も声もとても冷たかったけれど、私は数日ぶりに彼女が話しかけてくれたことに少し安堵していた。
「何?」
小さく首を傾げると、有里がエレベーターを降りるように促してきた。
私は頷くと、エレベーターを降りて歩き出した有里についていく。
歩き出した有里はそのまま無言で会社のビルを出て駅の方へと進んで行く。
有里の後ろから数歩距離をとって歩いていると、会社のビルから数メートル遠ざかったところで彼女が振り返って歩を止めた。