世界を濡らす、やまない雨


「ねぇ、杏香。あんた、四~五日前に課長と二人で歩いてなかった?」


有里は冷たい目をしたまま私にそう尋ねた。

尋ねられた私は、思いあたるその事実にドキリとする。

会社のビルの出入り口で課長に声を掛けられて食事に誘われたのは、確かに四日ほど前のことだった。

同じ課の同僚には見られていないと思ったのに、有里に見られていたのだろうか。


「確かに四日くらい前に、会社の出口で課長に出会ったけど……どうして?」

何でもないような顔をしてそう答えながらも、内心は動揺して手の平に汗をかいていた。

エレベーターの中で後ろから課長に羽交い絞めにされたときの恐怖、手首を掴まれてタクシーに乗せられそうになったときの恐怖……


思い出すと今も少し手が震える。


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