世界を濡らす、やまない雨


「おかえり」

怜が私を出迎えるのは珍しかった。

私を出迎えた彼はまだスーツ姿で、ネクタイだけを軽く緩めていた。


「早かったな」

そう言って口元に笑みを浮かべる怜は、機嫌が良さそうだった。


「うん。怜は今帰ったの?遅かったんだね」

「あぁ。ちょっと、残業」

残業だという割には、怜はあまり疲れているようには見えない。

それどころか、何かいいことでもあったかのように意気揚々としていた。

私は眉尻を下げて怜を見つめたあと、リビングに行くために彼の横を通り過ぎようとした。


「ごはんは食べた?何か作ろうか?」

怜の傍を通り過ぎるときに、彼を見上げる。


その瞬間、甘い匂いがした。


以前にどこかで嗅いだことのある、柑橘系の甘い香り。


心に染み付く、嫌な……



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