世界を濡らす、やまない雨


顔が引き攣りそうになり、怜から顔を背ける。

そのままリビングへ急ごうとすると、後ろから怜に抱きしめられた。


「いや、飯はもう食ってきた」

怜に抱きしめられると、柑橘系の甘い香りが強くなる。


その香りは、彼にしっかりと染み付いていた。

私を抱きしめる怜の腕から、すぐ傍で揺れる彼の髪から、首筋に寄せられる彼の鼻先から。

怜を象る全てから、その甘い嫌な香りが漂ってくる。


「杏香……お前、いい匂いする」

怜は耳元で低く囁くと、私のうなじにそっと唇をつけた。


抱きしめる怜の手がゆっくりと胸元へ伸びてきて、私はどうしてか泣きそうになる。


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