世界を濡らす、やまない雨
私は胸元に伸びてきた怜の手を自分の手で押し留めると、俯いて唇を噛んだ。
「杏香?」
いい匂いがするのは、怜の方でしょ────……?
怜の手を押し留めて抵抗したものの、喉元まで出掛かっているその言葉を口にすることはできなかった。
「杏香、どうした?」
怜が優しい声で私の名を呼びながら、彼の手の動きを妨げている私の手を退ける。
怜は私の肩を掴むと、身体ごと彼の方に振り向かせた。
怜と向き合った私は、唇を噛み視線を床に落としたままでいた。
「杏香」
怜が猫なで声で私を呼んで、私の頬に手の平をあてる。
そして、床に視線を落としたままの私の顔をぐっと上げさせた。