世界を濡らす、やまない雨
「角谷くんは、誰かを見捨てたことがある?」
私の声が、角谷の挿すビニール傘の下でやけに響いた。
「え?」
角谷の眉が動き、彼の眉間にうっすらと小さな皺が寄る。
角谷の顔を見上げながら、私は口角を引き上げて自嘲気味に笑った。
「私はあるの」
私が目を逸らしたときの、彼女のあの表情。
私に向かって真っ直ぐに突き刺してくる矢のような……
あの眼差しを、私は今も忘れない。
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