世界を濡らす、やまない雨



「ごめんね……服が乾いたら、すぐ帰ろう」

微かに煙草の匂いが残る部屋に足を踏み入れながら、角谷が俯きがちに言った。

ラブホテルにしては、シンプルで綺麗な部屋。

角谷は私から大きく間隔を空け、耳を赤くしていた。


会社を出て、土砂降りの雨に降られていた私は駅に向かう途中で偶然角谷に会った。

びしょ濡れのままでは帰りのラッシュで混んだ電車に乗れない。


角谷はずぶ濡れの私の身体が乾くように、傘を挿して近くの喫茶店をいくつか回ってくれた。

どの喫茶店の店員も初めは「いらっしゃいませ」と愛想よく笑いかけてきた。

だが、ずぶ濡れで服から水が滴り落ちている私と、私がこれ以上濡れないように庇ったせいで身体の半分がずぶ濡れになった角谷を見ると、彼らの笑顔は一瞬にして引き攣った。


近くにあった喫茶店全てに入店を断られ、私達はオフィス街の裏手にひっそりと建つラブホテルの中にいる。


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