世界を濡らす、やまない雨
「佳乃だよ」
クラスメイトが小さな声で私に囁く。
でも、不安そうに踊り場の端に立つ女子を佳乃だと認めるまで、私には少し時間が必要だった。
それくらいに、佳乃の印象は変わっていた。
いつも凛と伸ばしていた背は自信なさ気に丸められていて、去年よりもずっと痩せていた。
いつも高い位置でまとめていた真っ直ぐな髪は、束ねられずにそのまま肩に向かって落ちている。
そして佳乃は、階段の踊り場の壁に手の平をあてて傍を走りすぎる同じ学年の生徒達を見て怯えるように小さく震えていた。
勉強ができて、優しくて、自分の意見をきちんと言うことができて……
誰に対しても公正で、クラス委員長によく向いている。
踊り場で小さく震える女子生徒に、私がよく知っているはずの辻井 佳乃の面影は少しもなかった。