世界を濡らす、やまない雨
「怜?」
小さく首を傾げると、怜が私に冷たい視線を送る。
「杏香。お前、男と会ってる?」
「……どうして?」
ほんの一瞬反応が遅れる。
男と────……
角谷とは食事をしたし、今日も助けてもらったけれどだからと言って何かやましいことがあるわけじゃない。
それなのに、怜の問いかけに私はドキリとした。
怜は私の顔を窺うようにじっと見つめたあと、「別に」と低い声で言った。
「俺、寝るから」
「あ、うん」
怜が私から視線を逸らして寝室のドアを閉める。
その瞬間、怜の髪から柑橘系の甘い香りがした。
その匂いは、今までで一番強かった。