世界を濡らす、やまない雨
*雨散*
Ⅰ
翌朝出勤すると、昨日まで有里が座っていたはずのデスクが綺麗に片付けられていた。
片付けられたデスクの片隅にきちんと整頓された書類やファイルの山がある。
私は胸がざわつくのを感じながらも、有里のデスクの前を通り過ぎて自分のデスクについた。
「おはよう」
「あ、お、おはようございます」
珍しく隣の席に座る同僚の男性から先に挨拶をされて、言葉に詰まる。
挨拶を返すと、彼は有里のデスクを確認するようにちらっと見てから私の方に椅子を近づけてきた。
「聞いた?」
「え、何をですか?」
隣にいても普段はほとんど口を利かないのに、今朝に限って彼は私に何かを話したくてたまらない様子だった。
戸惑っていると、彼が少ししらけたように私を見る。
「決まってるだろ。幸田のことだよ」
「有里が……」