世界を濡らす、やまない雨
片付けられた有里のデスクを見たときに感じた胸のざわつきがまた甦る。
「今日付けで退職だってよ。急だよな」
「そうですか……」
同僚の彼が何を言い出すか、薄々予想はついていた。
でも、それが事実でなければいいと強く願ってしまう。
「形式上、幸田が辞表出したみたいだけど……まぁ、実質クビだよな」
同僚が冷たい声で言う。
そこにあるのは有里に対する嫌悪にも似た感情で、同情など微塵もなかった。
「そう……、ですか」
有里は同期の中でも仕事ができるほうで、性格も明るいから先輩からの好感度だって私なんかよりもずっと高かったはずなのに。
それが、事実かどうか定かではない噂ひとつでこんなにも簡単にその信頼を失ってしまうなんて。
人を判断する価値はいつだって、生身のその人自身ではなくてその人に付随するものらしい。