世界を濡らす、やまない雨
ふと、中学三年生のときに見た佳乃の姿を思い出す。
階段の踊り場で人が変わったような顔つきで震えていた彼女。
高みにいた人が谷底に突き落とされたのを見たその瞬間、ようやく地に這い上がりかけていた私は再び突き落とされることの恐怖を知った。
周りの人間から見捨てられることが、今自分が立っている地盤が崩れることが怖くて……
私は隣の同僚に何も言い返せない。
有里が私をどう思っていたかはわからないが、それでもこの会社で数年同僚兼友達をやってきたのに……
有里を庇う言葉ひとつ言い出せない。
有里のことを冷たく軽蔑する同僚の言葉に胸が痛む。
けれどその痛みは有里のためのものなのか、それとも自分のエゴなのかわからない。