世界を濡らす、やまない雨
始業時間を一時間以上も過ぎてから、有里はひとりで彼女のデスクに戻ってきた。
戻ってきた有里に、同じフロアの同僚達が無遠慮な視線を投げかける。
そんな中で、有里は無表情でデスクの上に乗っ書類やファイルをいくつかの段ボールに分け入れていた。
有里は自分で作った段ボール箱を、ひとつは部長のもとへ、ひとつはこれまで仕事で関わることの多かった先輩社員のもとへと運ぶ。
そして最後に残った一箱を私のところに持ってきた。
私のところにやってきた有里は、持ってきた箱を重そうにデスクの端に置く。
傍に立った有里をそっと見上げると、彼女は冷たい目で私を見下ろした。
「道木さん。これ、引継ぎなんでよろしくお願いします」
有里に「道木さん」なんて呼ばれるのは、ひさしぶりのことだった。
有里の声は冷たくて、一度も会ったことのない他人に話しかけられたような感覚になる。