世界を濡らす、やまない雨
「あ…はい……」
戸惑い気味に有里を見上げる。
もっと何か言わなければ。
必死で有里にかける言葉を探したけれど、うまい言葉が見当たらない。
私がぐずぐずと迷っている間に、有里はくるりと踵を返して私の前を立ち去った。
結局有里に何も言葉をかけられなかった私は、彼女がデスクに置いていった段ボール箱を前に少し落ち込む。
重たい箱を開けてみると、これまで有里がメインで処理を行っていた事務的な書類が山程入っていた。
「道木さん、とんだとばっちりだな」
隣の席の同僚が、有里から渡された段ボール箱の中を見て眉をしかめる。
私は何も答えずにただ苦笑いを浮かべると、箱の中にどっさりと入った書類をひとつひとつ確認し始めた。
ちらりと有里を見ると、彼女はまだ自分のデスクの整理や掃除をしている。
このまま、有里はいなくなるんだ。
あまり現実味は感じられないくせに、明日から無人になる有里のデスクのイメージは鮮明に思い描くことができる。
そんな自分が怖かった。