世界を濡らす、やまない雨
そのとき、まだ社内でデスクの片付けをしていた有里が立ち上がった。
有里が立ち上がった瞬間、好奇の目が彼女の方に向けられる。
有里は自分のデスクの前で「お疲れさまでした」と言うと、小さく頭を下げて社同僚達の誰の顔も見ずに社内を出て行った。
足早に社内を出て行く有里に、好奇の目は向けても誰一人声はかけない。
私は去っていく有里の背中を複雑な思いで見送ってから、手に持ったままのコピー用紙を開いた。
何気なく開いたコピー用紙。
けれど、私はその中身を見た瞬間はっとした。
コピー用紙に包まれていたのは、二枚の写真だった。
その写真は既に退職した同期の結婚式に有里と二人で出席したときのもので、一枚目は新郎新婦と有里と私で写してもらったもの、二枚目は披露宴の席で有里と二人で並んで写してもらったものだった。
結婚式の帰り道、有里は私に笑って言っていた。
「一緒に写ってるのは、印刷してあげるね」