世界を濡らす、やまない雨
何気ない、ふとした瞬間に、それらはそっと滑り込む。
侵入したウィルスが、体の中で密かに潜伏するように。気付かない間に私の記憶をそっと虫歯む。
そしてタイミングを見計らって、それらは突然私の心の隙間に現れるのだ。
現れたそれらは嫌なモノクロの回想となり、数秒間…ときにはもっと長く私の心と体を支配する。
それは小さな小さなフラッシュバック。
もうどこかに置いてきたはずの記憶の欠片。
そのとき私は、いつも過去の私に戻る。
それは幼い子どもだったり、学生だったり、あるいは二十歳をとうに過ぎた大人だったり……
突然襲い掛かってきた古い記憶の重みに耐えきれなくなったとき、私は頭を大きく振ってそれらが作り出した悪い夢を追い払う。