世界を濡らす、やまない雨
「杏香ちゃん?」
凍りついて動き出すことができなくなった私に、先生が声をかける。
その声で、はっとした。
そうか。次は私が鬼なんだ……
急いで十数えて走り出す。
けれど、今度はいつまで走っても誰も捕まえることができなかった。
いや────、できなかったのではなくて、私は敢えて誰も捕まえなかったのだ。
真剣に他の子を追いかけることはせず、追いつきそうになるとわざと減速した。
『杏香のくせに────!!』
また誰かにそう言われるかもしれない。
そう思ったら怖くて、とても本気になんてなれなかった。
もしまた誰かに同じことを言われたら、愛想笑いを浮かべて何も感じなかったフリをすればいいのかもしれない。
さっきの彼女の言葉だって、一瞬感情的になってつい口から出ててしまっただけのものかもしれない。