世界を濡らす、やまない雨
◇
幼い頃の記憶に心を支配されていた私は、ベッドの中で冷や汗を掻いて小刻みに震えていた。
それに気付いた怜が、私の額に手をのせる。
「杏香。大丈夫か?」
怜の声は、とても優しかった。そのことにほっとする。
怜は震える私の身体を抱きしめると、背中をゆっくりと撫でてくれた。
怜の温もりに安堵して、震えが止まる。それでも、窓を打つ雨音だけはずっと耳に響いている。
横たわる怜の背後にある窓は、カーテンが少し空いていた。
カーテンの隙間から覗く窓に、雨の滴が張り付いているのがうっすらと見える。
それを見ないように、目を閉じる。
けれどもう、眠れる自信はなかった。