世界を濡らす、やまない雨
*雨潦*
Ⅰ
電話のコール音と、パソコンのキーを打つカシャカシャという音。
紙の擦れる音、足早に過ぎていく忙しそうな足音。
社内に溢れるそういった雑音を聞きながら、私はいつものようにパソコンに向かってデータ処理をしていた。
昼休みに差し掛かる直前、社員達は皆、ゆったりとした午前中の時間の流れを急激に加速させる。
私はデスクに詰まれた書類の束を横目で見ながら、パソコン画面を睨んだ。
昼休みまであと三十分。
午前中のうちに、できるだけのことは済ませたい。
今日は怜が早く家に帰ってくる日だ。
だから私は極力残業をせずに、彼より早く帰宅しておきたかった。
昼休みに入る十分前。
私の仕事は目標値まで片付いていた。
この調子なら、今日は定時に帰れそうだ。
小さく息をつくと、パソコンのキーを打つ速度をゆるめる。