世界を濡らす、やまない雨
「道木さん、これもお願いできる?」
女性の先輩社員の声が聞こえ、顔をあげる。
彼女は女性でありながら、営業として好成績をキープしている、課の中でも優秀な先輩だった。
「私、これから取引先に行かなきゃいけないのよ。明日までに処理しておいてくれたら助かるんだけど」
彼女は申し訳なさそうに眉を寄せながらも、既に私にその仕事を頼む気満々のようだった。
彼女の手にかろうじて触れているその書類は、完全に私のデスクに載っている。
明日まで――…
自分がこれから終わらせなければいけない仕事と、彼女が置いた書類、そして怜の顔が脳裏を掠め、頬がひきつる。
自分の本来の仕事じゃないのだから、断ればいい。
でも断れない……
そして、私に仕事を頼んできた彼女はそのことをよく知っていた。