世界を濡らす、やまない雨
「わかりました」
口元に愛想笑いを浮かべて頷く。
「ありがとう。じゃぁ、よろしくね」
私の返答を聞くと、彼女は満足気に笑ってひらひらと手を振った。
「ちょっとサキ!明日までの仕事、道木さんなんかに頼んで大丈夫なの?」
彼女が立ち去ったあと、すぐ傍で別の女の先輩がそう言っている声が聞こえた。
「大丈夫、大丈夫。明日なんて言ったけど、本当の締め切りは一週間後なの。道木さん、仕事は遅いけどやることは正確だし。普段使えないんだから、使えるところで役に立ってもらわなきゃ」
小さな声で笑う先輩達。
本人達は私に聞こえないように話しているつもりなんだろうが、彼女たちの声はしっかり私の耳に届いていた。
普段使えないんだから使えるところで……
その言葉は私の胸を深くえぐるけど、社内で泣いたり傷ついた顔なんてできない。
私は表情が緩まないように、口内で歯をぎゅっと噛み締めた。