世界を濡らす、やまない雨
私は人より仕事のスピードが遅く、効率も悪いらしい。
自分では一生懸命に事務の仕事をこなしているつもりだけれど、周りが皆そう言うのだからそうなのだろう。
「仕事は遅いけど正確」と、そう言ってもらえるだけマシなのかもしれない。
私は先輩が置いていった書類に一通り目を通すと、思わずため息をついた。
量が多くてそう簡単に終わりそうもない。
今日は残業になりそうだと、早めに怜に連絡をしておかなければ。そうでないと、彼はきっと機嫌が悪くなる。
「杏香、また担当外の仕事押し付けられてる」
肩を叩かれて顔を上げると、同期の幸田有里が苦笑いを浮かべていた。
「サキ先輩も強引だよね。杏香も自分が忙しいときはちゃんと断らなきゃ。都合のいいやつだって思われて、どんどん自分で自分の首絞めることになるよ」
「そうだね」
デスクに置かれた書類の束を見てしかめ面を浮かべる有里に、私はへらへらと薄笑いを浮かべる。