世界を濡らす、やまない雨


たまに有里が提案した店が私の気分と合わないこともあるけれど、そのことは絶対彼女には言わない。



杏香のくせに────!!

下手に意見を言って、そんなふうに思われたら……

私はそれが怖いのだ。

誰かにそう言われないために、私はいつも笑って人に合わせてしまう。


私たちはオフィスから歩いて二、三分の場所にある店でランチをとることに決めた。

その店は、最近オープンしたばかりのイタリアンレストランだった。

生パスタを出してくれる店で、この辺りで働く若い女性に人気がある。

その日も、店の前には三組の女性客が並んでいた。

オフィス街にあるため回転が速いのか、十分ほど待ったところで私たちの入店の順番が巡ってくる。

レストランの中は私たちと同世代の若い女性のグループが多く、楽しそうな話し声や笑い声でにぎわっていた。

テーブルから垣間見える厨房やホールも、快活そうな店員が揃っていて店全体に活気がある。

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