世界を濡らす、やまない雨


昼休みの終わり、有里はいつも化粧直しのために化粧室に立ち寄って、時間ぎりぎりまでそこで出会った他の女子社員とぶつぶつ言っている。

毎日毎日、よく同じような愚痴ばかり言えるものだ。

苦笑いを浮かべながら化粧室に一歩足を踏み入れる。


「そういえば、杏香来るって?」

だけど私は、誰かのその声で立ち止まった。


「あぁ、わかんない。考えるって言ってたけど、五分五分かな。断られるかも」

気だるそうな有里の声が聞こえる。

それで、彼女たちが話しているのがランチのときに誘われた合コンの話だとわかった。


「そうなんだ」

誰かが大して興味なさそうに相槌を打つ。

私が化粧室の中に入るタイミングを失っていると、別の誰かが言った。

「杏香って何かもたもたしてるよね。何聞いてもはっきりしないし。有里、よく毎日杏香と一緒にいれるよね」


顔の見えない誰かの声が、私の胸に深く突き刺さる。

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