世界を濡らす、やまない雨
「あぁ、思った。イライラしない?あたしは多分ムリ」
もうひとつ。
無責任に放たれる誰かの声。
鼓動が、
速くなる。
「うーん。あたしも別に、好きで杏香と一緒にいるわけじゃないけどね」
有里が笑いながらそう言うのが聞こえる。
「杏香と一緒にいると、逆に自分が引き立つじゃん?会社だったら、あたしが仕事できそうに見えるし。合コンでも、はっきりしないあの子がいればあたし達、引き立つよ」
有里のその声に、別段悪意は感じられない。
ただ素直に、正直にそう思っている。そんな言い方だった。
「有里、結構悪いこと考えるね」
「まぁ、実際そうだしね」
そこにいる全員がくすくすと笑う。
ポーチのファスナーを閉める音がしたあと、いくつかのヒールが床を打つ音がした。
有里たちが化粧室から出てくる気配。
私はそれを感じながらも、立ちすくんだまま動けない。