世界を濡らす、やまない雨
*雨滴*
Ⅰ
玄関を開けるとすぐ、乱雑に脱ぎすてられた男物の靴が目に飛び込んできた。
同時に耳に聞こえてきたのは、ノイズのようなテレビの音。
私は家に上がると、履いていた黒いヒールの靴と脱ぎ捨てられたままの男物の靴を揃えて玄関に並べた。
玄関から真っ直ぐに延びる廊下を抜けると、すぐにリビングに繋がる。
リビングに入った私はまずテレビと対面する。
そのすぐ傍で、一緒に住んでいる恋人の怜が肘をついてごろりと横になっていた。
「ただいま。早かったんだね」
私はできるだけ柔らかく見える笑顔を作ると、怜の背中に話しかける。
だが彼は私の声が聞こえていないのか、何も答えない。
「ただいま」
大きな声でもう一度言ってみる。
だが、怜はやはり無反応だった。