世界を濡らす、やまない雨
Ⅱ
あれは、いつのことだっただろう。
ほとんど黒に近い灰色の空から長い雨が絶え間なく落ち、私の傘にあたって重たい音をたてていたこと。
隣を歩く友人の顔を隠す傘の赤色がどうしようもなく暗い赤で、黒に近い灰色の空に張り付いた血の染みみたいに見えたこと。
いつのことだったか。それを言った友人がそのときどんな表情をしていたのかは忘れてしまった。
でも、あのときの重たい雨の音と、血の染みみたいな暗い赤色だけはとてもよく覚えている。
故意だったのかそれとも無意識か、傘で顔を隠した友人が唐突に言った。
少しの悪意もない、無責任な声で。
「────ちゃんてね、本当は杏香のこと好きじゃないんだって」