世界を濡らす、やまない雨
私の足がピタリと動きを止める。
長い雨が重たい音をたてて、突き刺すように私の傘に打ちつけてきた。
赤い傘で顔を隠した友人は、私が立ち止まったことに気付かず数歩先を進んでいく。
「杏香と一緒に遊ぶのいやなんだって。遊びたくないのに、杏香がいつも引っ付いてくるから困ってるって。そう言ってたよ」
何のために友人が、私にそんな告げ口をしたのかはわからなかった。
嫌いな私を遠ざけたいのに。付き纏ってくる私がうっとうしいのに、直接言えない。
だから代わりに伝えてほしい。
そんなふうに頼まれたのかもしれない。
もしかしたら意味なんてなくて、雨のなかで途切れた会話をもたせるための、友人の意地悪な思いつきだったのかもしれない。
理由なんて、どちらでも構わない。
だけど、立ち止まった私の胸に競りあがってきたのは、何かを噛み潰したような、言葉にするのが難しい、とても苦い感情だった。