世界を濡らす、やまない雨
立ち止まりじっとしているはずなのに、どうしてか鼓動が早鐘を打つ。
嫌われないように、合わせてきたつもりだったのに。
私から一メートル離れても、友人は私が立ち止まっていることに気付かない。
血の染みみたいな友人の赤い傘がゆらゆら揺れて、私の鼓動をさらに速くさせた。
「────ちゃん達の会話を勝手に聞いて、関係ない杏香まで笑ってくる、とかも言ってたよ」
競りあがる苦い感情を口の中で噛み潰している私に向けて、友人がまた傘をゆらゆらと揺らす。
友人の赤い傘が揺れるたび、ギリギリのところで押しとどめている苦い感情が、口の中で溜まっていく。
その感情を全て吐き出して、重たい音をたてる雨と共に流し去ってしまいたかったけれど、私は立ち止まったまま何も吐き出すことができなかった。
もし吐き出せていたとしても、私の中に溜まっていく苦い感情は、川底に巣くう泥のようにもったりと重くて。雨なんかでは流せなかったかもしれない。