世界を濡らす、やまない雨
友人に追いついた私は、頬を引き攣らせながら不自然に笑う。
私との距離が縮まると、友人は何事もなかったようにまた赤い傘をゆらゆらと振って歩き出した。
友人が口にする話題は、もう他のことに移っている。
私の喉の奥では、まだ苦い感情が居座って、泥まみれの水溜りを作っているのに。友人の話は重たい雨の音も水溜りも跳ね除けてさらさらと流れていく。
もっと気をつけなければ。
私は友人の話を聞きながら、喉の奥に泥のようにもたついた苦い感情を少しずつ必死に削ぎ落とした。
しばらく忘れていたけれど、それは決して渇くことのない記憶。
重たい雨の音と、血の染みみたいな暗い赤色。
それを言った友人の顔はもうぼやけている。
けれど、黒に近い灰色の空で揺れていた赤い傘とよく似た色をした友人の唇を思うと……
それは今、有里の顔と重なった。