世界を濡らす、やまない雨


全員の前にパンが並べられると、今度は女性側の自己紹介が始まった。

私の隣で有里がいつもよりトーンの高い声で話をし、それから私の順番がやってくる。


道木(みちき) 杏香(きょうか)です。よろしくお願いします」

私は視線をさげたまま、向かいに座る男性たちの顔をちらりとも見なかった。

有里や他の子達には、「どんな男がタイプ?」など野次のように質問を飛ばした相手の男性たちは、小さな声で愛想のない短い自己紹介を私には何も尋ねてこない。

それから私は、合コンが終わるまでほとんど何も喋らなかった。

出てくる料理は全ておいしかったから、私は目の前に出てくる料理のこと以外は何も考えなかった。


何も話さない私に気を遣ってくれたのか、前に座っている男がときどき思い出したように私にも話を振ってくれた。


「道木さんは?」

それに対して私は、頷くか首を振るだけだった。

前の男が私に話しかける度、隣に座る有里が不服そうに眉を寄せていたから。

デザートに出てきたラズベリーのジェラートを食べ終えたとき、今後はどんなに有里に誘われても合コンなんて断ろうと思った。

行けば行くほど、きっと私の中の嫌な記憶が増える。


そうして、溜まっていく。


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