世界を濡らす、やまない雨
「重そうだね。その荷物、ひとつ持ってあげようか」
私に手を差し伸べた課長は、優しい声音でそう言った。
「いえ、そんな。とんでもない」
驚いて私が首を振ると、課長は唇の端の片方をゆっくりと引き上げた。
「遠慮しなくても大丈夫だよ」
ゆったりとした口調でそう言ったかと思うと、課長の手がぐいっとすばやく伸びてきて私の腕をつかんだ。
エレベーターの「開く」ボタンを押していた私の指はそこから離れ、扉がゆっくりと閉じていく。
「あの……」
閉じていく扉を開こうと焦った私の体を、課長が突然後ろから羽交い絞めにするように抱きしめる。
課長の突然の行動に驚いた私の喉の奥から、「ひっ」と悲鳴にならない声が漏れた。