世界を濡らす、やまない雨
そのとき、チンッとエレベーターが鳴る音がした。
エレベーターが階下へと動き出しそうになり、それに気付いた課長が私の身体を離しエレベーターの扉を「開く」ボタンに左手を伸ばす。
「さぁ、先に出なさい」
課長のその薬指には、シルバーの指輪が鈍く光っていた。
まだ恐怖で動けない私の耳元に、課長が顔を近づける。
「道木さん、今度一緒においしいものを食べに行こう」
課長の吐息が、耳朶にかかる。
それを合図のように、私はエレベーターを飛び出した。