世界を濡らす、やまない雨
荷物を抱えたまま、女子トイレに飛び込む。
鏡を見ると、顔は白く、唇は真っ青だった。
ぞわぞわとあわ立つ鳥肌と、小さな震えが止まらない。
エレベーターを降りるときに見た、課長の左手で鈍く光っていた指輪。
それが何度も頭の中でフラッシュバックする。
どうして────……?
四十代間近の課長は、綺麗な奥さんと二人の子どもがいて、家族仲がいいことで評判だった。
穏やかだが部下をひとりひとりにきちんと目を向けていることで、会社での信頼も厚かった。
それが……