世界を濡らす、やまない雨
その日私は、まだやりかけの仕事をそのままにして、定時ぴったりに会社を出た。
仕事など、手に付かない。
一刻も早く、課長のいる空間から逃れたかった。
「杏香?」
鞄をつかみ、逃げるように帰ろうとする私を有里の声が呼び止める。
けれど、私には有里の声に振り返る余裕などなかった。
有里の声を無視して、足早に立ち去る。
「幸田さん、ちょっといいかな」
そのとき、有里を呼ぶ課長の声が聞こえた。
「はい」
課長の声を聞いた私の肩が震える。
声を掛けられたのは有里なのに、私の足も一瞬止まる。