世界を濡らす、やまない雨
課長に背を向けて一瞬足を止めた私の首筋に、じとっと湿った視線が注がれたような気がして、ぞわりと全身が粟立つ。
私は腕を組むように自分の身体を抱きしめると、一度も振り向かずに職場を後にした。
職場を出た私は駅まで走り、電車を降りたあとは家まで走った。
そのせいか、家に着くころにはうっすらと汗をかいていた。
じんわりと汗で湿った額を拭いながら、マンションのドアの鍵を開ける。
急いでドアを開けると、家の中は真っ暗で静まりかえっており、怜はいなかった。
仕事でまだ帰ってきていないことはわかっていたが、怜の不在は私をひどく不安にさせた。
心を落ち着かせるために深呼吸をして、靴を脱ぎ家に上がる。
廊下を通り抜け、リビングの電気をつけたとき、鞄の中でスマホが鳴った。
普段ならそれほど驚きもしないスマホの着信音が、今は心臓が跳ね上がりそうになるほど私を驚かせる。