世界を濡らす、やまない雨
「おかえりなさい」
今にも泣き出しそうな声でそう言うと、怜はしばらく無表情で私を見つめ、それから唇の片側だけを引き上げた。
「何、杏香。俺のこと待ってたのか?」
怜の言葉に、こくんと首だけを縦に振る。
すると怜は、それが意外だというように小さく鼻で笑った。
「たまには可愛いとこあるじゃんか」
怜はそう言うと、私の腕を引き、身体を廊下の壁に押し付けた。
「お前には俺しかいないもんな」
怜が私の頬に手の平をあてながら、不敵に笑う。