世界を濡らす、やまない雨
*雨衣*
Ⅰ
嵐の前の静けさ。
何も起きない。
そんなときこそ、気をつけないといけない。
変事が起きる前は、不気味なくらいに静まり返るものなのだから。
それなのに、私はすっかり油断していた。
エレベーターでの一件から、仕事のこと以外で課長が私に話しかけてくることはなかったからだ。
いや、むしろ仕事のことですら私に話しかけてきていなかったのかもしれない。
課長は何事においても、私に興味を示さなかった。
事務の仕事も、私ではなく有里や他の事務職員に頼む。